石原慎太郎の理念・思想

金融経済論

金融奴隷列島日本

アメリカの景気のほうがいいのは、日本から毎年毎年回っていく金で潤っているからにほかならない

国際金融の専門家の試算によると、仮に日本が保有するすべての米国債を売却したとしたら一ドルが五十円前後に暴落するだろうと。アメリカ側もその数値は承知しているはずだが、そんなことをすればアメリカ経済が破綻し、同時に日本の経済もつぶれるし、ドル本位制で動いている世界は未曾有の大混乱に陥るから臆病な日本がそんな大胆な攻撃一本槍の勝負に出てこられるはずがない、そう高をくくっているに違いない。

今日の日米経済関係の虚構の持つ意味合いは、アメリカの大国としての保身のエゴイズムであり、そのためには日本は纏足の妾だろうが、奴隷だろうが、好きなだけ使って場合によったら捨てる。もっといい家来がいたら、それを使う。そういうアメリカの本音が感じられる。

『宣戦布告「NO」と言える日本経済』(光文社)

社会資本が整備されアメリカの公共投資はほぼ終結したという。自分の国にパイがなくなったので、ゼロ金利でも大人しくしているような日本にそれを求めた

「二〇〇五年には、日本は米州の一つに併合されることになっている」

この衝撃的な発言は、細川政権発足当時に流布された「ある情報」にそっくり重なる。情報源は日本におけるきわめて有力な米政府関係者P。皇居に面したホテルに事務所を構えるPもまた、当時、「二〇〇五年の日本併合」に言及したといわれる。

じつはこの二〇〇五年を到達点とするアメリカの日本完全属国化というシナリオには他にも諸々の震源地があって、ただし、なぜ二〇〇五年なのかはいずれの説も大雑把であった。しかし戦略なき日本という今日的現象を悲観的に眺めた場合、そして経済再生の分水嶺から転落し、永遠の迷路に日本経済が踏みこんでしまうと仮定すると、これはにわかに現実味を帯びてくる話だ。

社会資本が整備されアメリカの公共投資はほぼ終結したという。自分の国にパイがなくなったので、ゼロ金利でも大人しくしているような日本にそれを求めた。次に会計制度というルールを押しつけても、すんなり受け入れている。ならば併合してしまったほうがてっとり早いと考えても矛盾はないということか。黙っていては嵩にかかってくるのがアメリカという国であることを忘れてはいけない。日本の国家財政破綻につけこんで、円のドルへの統合を具体化し、一気に日米の金融、経済統合を進める可能性も否定できない。  

『国家意志のある「円」』(光文社)

結論から言うと、日本のゼロ金利政策はアメリカの政策誘導によって長期化しているのだ

金利のない世界でだれかが無理やりに経済を押し回そうとしている。それは日本の現政権であり、そしてさらにそれをコントロールしてきた金融経済戦争の勝者であると自認しているアメリカということになる。

結論から言うと、日本のゼロ金利政策はアメリカの政策誘導によって長期化しているのだ。『宣戦布告「NO」と言える日本経済』で述べたドル還流装置の維持のためにアメリカは日本の金利をアメリカより低くすることを常に要求してきた。

「日米の金利差というのは、最低四%ということになっています。それだけの差があると、金利を求めて資金がアメリカへ流れていくからです。政策的に最低限四%の金利差をつけるように両国政府は誘導しています。私はこれを以前からアメリカへの「所得移転だ」といってきたのですが、すると、ある著名な論者が見当外れの妄論で噛みついてきました」

と内橋克人氏が『浪費なき成長』(光文社)で言っているが、指摘は事実だろう。

『国家意志のある「円」』(光文社)

日本はたしかに負債、借金は多いが、それ以上に金融資産も多く、アメリカやヨーロッパの国々は金融資産をあまり保有していない。つまり日本の財政赤字の実情は世界で最小ともいえるのです

アメリカのエコノミストまでがしたり顔に日本経済改革の必要性を力説もしてくれて、ウォール街などでは日本溶解(メルトダウン)、日本経済完全崩壊の根拠のひとつとして、この日本の長期債務の増加数字がもてはやされている。一九六五年には国家債務がゼロであった日本が今では世界最悪の状況になってしまった、とアメリカのアナリストたちははしゃいでいる。

しかし第一勧銀総合研究所山家悠紀夫(やまべゆきお)専務理事などが最近の雑誌論攷でわかりやすくパラフレーズし紹介しているが、これには数字のトリックが使われている。 

日本とアメリカの二国の数字にはヨーロッパとは方式が異なるせいもあってのことですが、社会保障基金の数字が入っていない。これを含めると日本は三・三パーセントとなり、アメリカも二・〇二パーセントになるが、日本はドイツよりも若干よくなってしまう。

しかも純財政赤字残高とGDPを比較すると一九九五年の日本が一〇パーセント、フランス三五パーセント、イギリス四二パーセント、ドイツ四四パーセント、アメリカは先進国中最悪の五〇パーセントになる。

さらに政府の保有する金融資産を引いた純債務は一九九六年末で七十六兆円で、GDP比で一六パーセントとなり、他の先進国が四〇パーセント台になっているのと比べると、日本ははるかに勝れています。日本はたしかに負債、借金は多いが、それ以上に金融資産も多く、アメリカやヨーロッパの国々は金融資産をあまり保有していない。つまり日本の財政赤字の実情は世界で最小ともいえるのです。

『宣戦布告「NO」と言える日本経済』(光文社)

アメリカは世界の基軸通貨としてのドルを好きなだけ印刷してたれ流し、そのドルを還流させることで、対外赤字一兆四千億ドルのアメリカ経済をかろうじて保っている

最近ようやく何人かの専門家が指摘するようにはなったが、アメリカは世界の基軸通貨としてのドルを好きなだけ印刷してたれ流し、そのドルを還流させることで、対外赤字一兆四千億ドルのアメリカ経済をかろうじて保っている。ドルの還流とは、利回りがいいとして、外から金を持ちこんでこさせてアメリカの国債を含むアメリカの金融商品を買わせるメカニズムです。

この手法に乗せられた日本は貿易で稼いだドルを日本より金利が高いアメリカにつぎこんできました。そのため日本の金利をわざと低くするという策を弄してまで、アメリカあっての日本ということでアメリカに奉仕協力してきた。

その結果、アメリカの財務省に対しての日銀の融資は二千億ドルを超えており、アメリカの金融機関への預金が九百億ドル、民間企業のアメリカ国債の保有高を含めると、日本全体では三千二百億ドルというとてつもない巨額をアメリカに融通していることになります。

つまり、日本が世界最大の債権国で、アメリカは世界最大の債務国、借金国であるのにアメリカの景気のほうがいいのは、日本から毎年毎年回っていく金で潤っているからにほかならない。

『宣戦布告「NO」と言える日本経済』(光文社)

↑ページの先頭に戻る